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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)5356号 判決 1962年2月27日

原告 駒場幸次

被告 武次栄

右訴訟代理人弁護士 柳沢義信

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

原・被告の申立並びに証拠関係 ≪省略≫

裁判所の判断 職権をもつて調査すると「原告は、昭和三四年中本件被告を被告として東京地方裁判所に損害賠償請求の訴を提起し(同庁昭和三四年(ワ)第七、三三四号事件)(以下「前訴」という。)本件建物は原告の所有であるところ、被告においてこれを不法に占有しているからという理由で、昭和三四年四月二四日から本件建物明渡ずみに至るまで一ヵ月金三万円の割合による賃料相当の損害金の支払を求めている。

前訴については、昭和三五年一〇月五日東京地方裁判所において請求棄却の判決言渡があつたが、原告はこれを不服として昭和三五年一〇月二四日東京高等裁判所に控訴を申し立て(同庁昭和三五年(ネ)第二、四三六号事件)、現に同裁判所において審理係属中である。」

と認められるところである。

しかして本件訴は、「要するに本件建物は原告の所有であるところ、被告においてこれを不適法に占有して引き渡さないので、原告は売主として、本件建物の買主である訴外須田芳太郎に対して本件建物の売買契約の不履行による特約に基く一日金五、〇〇〇円の割合による遅延損害金の支払義務を負担しているので、昭和三四年七月一日から本件建物引渡ずみまで一日金五、〇〇〇円の割合による損害金の支払を求める(尤も原告はこの外金三〇万円の支払を求めているけれども、これが昭和三四年七月一日から金五、〇〇〇円の割合による損害金と一部重複しているものであることは、前記のとおり。)」というにあるのである。

とすると、原告は、前訴においても、結局のところ被告が原告所有の本件建物を不法に占有していることを理由として損害の賠償を請求するものであるといわねばならない。

なる程、前訴は賃料相当の損害金の支払を求めるもので通常生ずべき損害の賠償請求であるのに対し、本訴は原告と訴外須田間の特約に基いて原告について生じた損害の賠償を求めるもので特別事情の損害の賠償請求の訴であるけれども、通常の損害というも特別の損害というも別個の不法行為によつて生じたものではなく、本件建物の不法占有という同じ一個の不法行為の中における損害額の範囲の問題に過ぎず、前訴も本訴も結局は本件建物の不法占有を原因とする同じ一つの損害賠償請求権を訴訟物とするものに外ならないといわなければならない。

のみならず原告が本訴で求めている一日金五、〇〇〇円の割合による金員は、原告が訴外須田との間における売買契約において定めた昭和三四年六月三〇日の本件建物の引渡期日にその引渡をしない場合に生ずる特約に基く遅延損害金であり、若し、被告が本件建物を原告に引き渡せば、原告は直ちにこれを訴外須田に引き渡すべき性質のものであるから、仮りに、被告が、これを原告に引き渡さなかつたとしても、一日金五、〇〇〇円の割合による賠償請求権が発生する以上、その他に一ヵ月金三万円の割合による賃料相当の損害の賠償請求権が発生するいわれはなく、一ヵ月金三万円の賃料相当の損害は、一日金五、〇〇〇円の割合による特約に基く損害の中に当然包含されているものと解するのが相当である(尤も、昭和三四年六月三〇日以前においては、一日金五、〇〇〇円の損害が生じないのであるから、同日以前の賃料相当の損害は包含されていないことになる。)。

以上説示のとおり、前訴も本訴も同一の当事者間において本件建物の不法占有を原因とする同じ一つの損害賠償請求権を訴訟物とする同一の事件であるといわなければならないから、本訴請求は民事訴訟法第二三一条の重複起訴禁止の規定に違背する不適法なものといわなければならない(原告としては、前訴において請求を拡張すれば良いわけである。)。

よつて、原告の本件訴はその余の点について判断するまでもなく不適法として却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉永順作)

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